横隔膜ヘルニア(猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア)

呼吸器

 腹膜心膜横隔ヘルニアは、横隔膜の発育不良や損傷によって横隔膜に穴が開き、その穴から腹部臓器が胸部の心膜内に入り込んでしまう先天的な病気です。発育不良・食欲不振・嘔吐などの消化器症状や、疲れやすい・頻呼吸などの呼吸器・循環器症状など様々な症状が認められます。しかしながら、ヘルニア内容の量や肺・心臓への影響が少なければ無症状であることもあります。

術前の胸部X線検査画像 術後の画像と比較すると、心臓陰影がとても大きく、腹膜心膜横隔ヘルニアが疑われます

 生後約半年の猫、Tちゃんです。去勢手術の前に、事前検査を行ったところ、胸部X線検査および胸部超音波検査で、腹膜心膜横隔膜ヘルニアであることがわかりました。消化器症状・呼吸器症状は認められませんでしたが、血液検査上で心臓病マーカーの上昇がありました。今後、呼吸器や消化器の症状が悪化するリスクと手術のリスクを提示し、相談の結果手術を行いました。

手術写真1 横隔膜ヘルニアが認められます

 まず、開腹手術を行い、横隔膜と脱出した臓器の確認をしたところ、横隔膜に大きな欠損が確認され、肝臓の大部分が胸部に入り込んでいました。

手術写真2 開胸後、脱出した肝臓を腹部に戻しました

 肝臓と、胸部の心膜や縦郭の構造が重度に癒着しており、腹部から脱出臓器を戻すことは困難でした。開胸し、慎重に癒着を解除したところ、肝臓は腹部に戻り、肺や心膜には重大な損傷は認められませんでした。

手術写真3 横隔膜と開胸部を修復しました

 横隔膜が大きく欠損している場合、人口材料を使ってヘルニア部を修復しますが、Tちゃんは縫合糸で縫合することができました。術後、ヘルニアの再発・気胸・出血・胸膜炎・肺水腫・開胸部の壊死などの合併症が起こることがありますが、無事に退院することができました。

術後三か月での胸部X線画像 横隔膜ヘルニアの再発はありません

 横隔膜ヘルニアは手術で完治が見込めます。しかし、すでに肺や心臓機能が低下している場合、術後大きな合併症が起きる可能性もあります。病気でお困りであれば、是非ご相談ください。